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浙江省温州市泰順県提線木偶戯
『娘娘傳』「揚州府収紅毛猴」


2008年2月19日(正月十二)、泰順県三魁臨水宮にて長春木偶劇団上演
馬場英子撮影


 福建省福州生れと伝わる陳十四(陳靖姑)は、浙江南部でも、雨水順調、妖怪退治で地域の安寧を守る女神として、人々に篤く信仰されている。陳十四の生涯と妖怪退治の物語は、清代の小説『閩都別記』(里人可求作)のほか、「娘娘傳」「平妖傳」「霊経」「南游」などと呼ばれて、木偶戯、地方劇、語り物の鼓詞、漁鼓などで演じられ、知らない人がいないほど広く親しまれている。
 福建と境を接する山岳地帯に位置する泰順は、古くから「木偶の郷」と呼ばれ、人形芝居が盛んな地域で、特に旧正月には、あちこちの廟で、糸操りの「娘娘傳」が上演される。 この劇は、信仰と深く結びついていて、必ず女神像の前(無ければ形代を祀る)で上演し、女神登場の場面では、線香を供え、霊符を燃やす。人形遣いは、上演中は精進潔斎する。
 「娘娘傳」は13段、7日7晩で上演される。
 観音の髪の毛が誤ってこの世に落ちて蛇の精になった。蛇の害を防ぐため、観音は2滴の血を滴らすと、雨水となって福州の陳道士の妻の口に入り、陳靖姑が生まれた。陳靖姑は閭山で修行し、各地の妖怪を退治し、雨水順調、子授けにも霊験あらたかだと信じられ、土地の守護神として篤く信仰される。泉州の洛陽橋建設にまつわる話を始め、多くの民間伝承と結びついて語られるが、猿の妖怪が出てくるこの段は、閩南語地区で特に人気があり、一段だけ演じるときにはこの段が演じられることが多い。
 本動画では、第5段「揚州府で妖怪紅毛猴を退治する」の段から一部を公開する。
 なお、「中国木偶戯関係写真資料データベース」検索頁で、演目に神仙「娘娘傳」、年月日に新暦「2008年2月19日」と入力すると、この動画の画像をまとめて見られるので、参照いただければ幸いである。
 
 


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 揚州の楊世昌は、美しい妻を残して商売に行く。帰宅してみると、なんと留守中に、妖怪が楊世昌に化けて家に入り込んでいた。妻の沈氏は妖怪に騙されて、夫が見分けられず、叔父に助けを求める。叔父は、二人の楊世昌に宝剣の上を歩かせてみるが、宝剣はさび付いていて、反応しない。耳の後ろのあざを確かめても、双方、同じである。世昌は武芸の修行をしていたので、武芸で勝負をさせるが、人が化け物にかなうはずもなく、楊世昌は負けて家から追い出される。楊世昌は、叔父と共に、揚州太府に訴えに行く。

 
 


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 太府は、訴えを聞いて、楊の家からニセの楊世昌を連行してくる。太府にも見分けがつかないので、二人を別々に収監し、順に尋問する。叔父が判定役となり、まず本物の楊世昌に、先祖の年庚などを尋ねる。化け物は本性の猿の姿になって、盗み聞きし、化け物の番になると、聞いた通り答えるので、区別がつかない。
太府はひとまず、二人を留置して、見分ける方法を考える。

 
 


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 ニセの楊世昌は、役所から逃げ出して楊世昌の家に帰れば化け物とわかってしまうし、いっそ、太府に化けることにする。翌日、太府が出廷すると、突然太府が二人になる。下役たちは、区別がつかないので、あわてて太府の母君を呼んでくる。母君にも見分けがつかない。母君は自分のスカートを女中に持ってこさせ、その下をくぐるように言う。実の息子である本物の太府は難なく通り抜けるが、化け物は通ることができなくて、逃げ出す。
 太府は、楊世昌と叔父を呼びだし、「化け物は見分けられたが、退治することはできない。今、家に帰っても、化け物にやられるだけだから、ひとまず避難して、匍匐膝行して観音に祈りをささげ、妖怪退治のできる法師を探し出して、助けてもらうように」と言い渡した。

 
 


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 楊世昌は仕方なく、線香をささげて、巡礼して山道を行く。霊官堂で祈りをささげると、女神が舞い降りる。陳法官(陳十四女神)その人で、今は、実家に帰る途中だが、すぐに化け物退治に行くので、先に揚州に帰り、家の広間と窓に霊符を貼って待つようにと言って霊符を二枚くれる。陳法官は、守護神の王謙と楊超を呼び出して、化け物の監視を命じる。

 
 


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 (守護神が舞うと、法力で、楊世昌に化けた猴がふらふらと呼び出される。舞台では、霊符を燃やして浄め、線香をつける。)陳法師、すなわち陳十四が妖怪退治の武装した姿で登場し、角笛を吹き、剣をふるって舞うと、化け物は引き出され、本性の猴の姿になる。陳十四にとりおさえられ、去勢され、めでたく化け物は退治されて、芝居は終わる。